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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)6494号 判決

原告 森井武夫

被告 枚方市

主文

一  本件訴を却下する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  別紙物件目録記載の土地と、その南側に隣接する被告市道「出口北中振一号線」との境界は、別紙図面表示(イ)、(ロ)の各点を直線で結んだ線であることを確定する。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する本案前の答弁

主文第一、二項と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有している。

2  本件土地は、その南側において、被告の管理する市道「出口北中振一号線」(以下「本件市道」という。)と隣接している。

3  本件土地と本件市道の境界は、別紙図面表示(イ)、(ロ)の各点を直線で結んだ線であるにもかかわらず、被告は同図面表示(ハ)、(ニ)、(ホ)の各点を順次直線で結んだ線であると主張して争つている。

よつて、原告は、本件土地と本件市道との境界が請求の趣旨1項記載の線であることの確定を求める。

二  被告の本案前の主張

本件市道の敷地の所有権は国に属する。

よつて、被告には本件境界確定の訴の相手方となるべき当事者適格がないから、本訴は訴訟要件に欠け不適法というべきである。

三  被告の本案前の主張に対する原告の答弁

本件市道の敷地の所有権が国に属することは認めるが、被告に本件境界確定の訴の相手方となるべき当事者適格がないとの主張は争う。

すなわち、土地の境界とは、土地を区画するために定められた公法上の区分線であつて、これについて争いがある場合にその確定を求めることは、その土地に対する権利の有無や態様とは直接関係がない。ただ、境界に関する紛争を解決し境界を確定することに最も密接な利害を有するのは多くの場合隣接する土地の所有者であろうから、境界確定訴訟の代表的な適格者は土地所有者であるといえる。しかしながら、この訴訟の適格者を土地所有者に限定する必然的根拠は全くなく、土地所有者以外にも境界に関する紛争解決に強い利害関係をもち、その者との関係で境界紛争を解決することが必要かつ適切であると考えられる者はありうるのであり、そのような者には当事者適格が認められるべきである。本件において被告は、道路法に基づき本件市道を管理する者であり、そもそも本件紛争の発生が原告の境界明示申請に対する被告の対応が原因となつたのであつて、被告は本件境界紛争の解決には所有者である国以上に密接な利害関係を有するから、被告に本件訴の当事者適格を認めるべきである。

四  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実のうち、被告が本件土地と本件市道の境界線を争つていることは認め、その余は否認する。

理由

一  被告の本案前の主張について

原告所有の本件土地の南側に隣接する本件市道の敷地を国が所有し、被告が道路として管理していることは、当事者間に争いがない。

そこで、被告が本件境界確定の訴について当事者適格を有するか否かについて考察するに、境界確定の訴は、隣接する土地の境界が事実上不明なため争いがある場合に、裁判によつて新たにその境界を確定することを求める訴であつて、土地所有権の範囲の確認を目的とするものではない。しかしながら、境界確定の訴に対する判決は、対世効を有し、それによつて定められた境界は事実上土地の所有権の範囲を画する効果を有するから、土地の所有者に対して重大な影響を及ぼすものといえる。従つて、境界確定の訴の当事者適格は、隣接する土地所有者のみに帰属するものと解すべきであり、地上権等の他物権者や道路としての管理者は、当事者適格を有せず、ただ、土地所有者の補助参加人としてこれに参加しうるにすぎないものというべきである。

したがつて、本件市道の敷地の所有者でない被告には、本件境界確定の訴について当事者適格がないものというべきである。

二  それゆえ、被告を相手方として提起された本訴は、不適法であるから、その余の点について判断するまでもなく、これを却下することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 川口冨男 園田小次郎 岡田信)

別紙物件目録〈省略〉

別紙図面〈省略〉

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